予告編を観た時はあまりに世界観が違う場面が次々と展開するので、本当にこれらの映像が同じ映画なのか不思議に思っていた。
しかし観終わってみるとちゃんと1つの話になっているのがすごい。
多少のタイミングの違いはあれ、6つのお話が行きつ戻りつしながら、次々とにクライマックスに突入してゆくのは素晴らしい映画体験だった。
この映画で語られているのは全く違う時代、そして全く違う6つのお話である。
しかし演じている俳優がいくつもの役をかけもちすることで、全体的な統一感やお話の連続性をとても強く感じることができるのだ。人は何度生まれ変わっても生まれ落ちたその時代で、過去と同じように戦ったり過ちを犯したりするものなのか?と思ったりもする。
全体として確かにテーマはあるのだが、そのテーマに必ずしも合致していないお話もある。
万人受けする映画じゃないのかもしれないが、気に入った人にとっては相当深くヤラれてしまう映画なんじゃないだろうか。(この映画が万人受けしなさそうなのは、あらすじを説明しにくいってところがあるのかもしれない。)
どこに引き込まれるかは人それぞれだが、僕はソンミ451のパートが一番好きである。
やっぱりマトリックスを思い出したりもするのだが、個人的にはかなりツボにはまるようなビジュアルが多かった。さらっと描かれているが、これは相当練られているんだろうなぁ....
以下の6つのパートのタイトルは僕が勝手に名づけたものである。
アダムは航海の途中、自分が助けた黒人奴隷に自分の命を救ってもらうことで、奴隷貿易へ叛旗をひるがえすことになる。 奴隷貿易というシステムはなくなったものの、ネオ・ソウルでの「複製種」としてより洗練された残酷さをもって復活する。
このパートの冒頭に出てくる海岸の海の色がとても綺麗で、ここもVFXなんだろうか...などと考えてしまった。
映画全体を構成する太い軸として、支配される人間の解放というテーマがあるが、このパートで描かれるクラウドアトラス六重奏誕生までの話は、愛の美しさというもう1つのテーマが提示される。また、ここでは老作曲家がネオ・ソウルのイメージを夢で観るという、未来から過去へのつながりがあることも重要である。全体的にとても美しいパートである。
ここで登場するシックススミスは、唯一複数のエピソードで同じ役として登場する。
「1973年 原子力発電所の陰謀」
1970年代の空気を実に見事に再現しているパートである。どことなく往年のブラックエクスプロイテーション映画を彷彿とさせるお決まりの展開がすごく楽しい。このパート単体ではハッピーエンドになっているが、全体としてとても重苦しい雰囲気がある。
人を支配する邪悪な精神と、それを打ち負かそうとする戦いは、このステージでは後者の勝ちのように見えても、実はこの時代では引き分けなのではないかと思う。
シックススミスがかつて自分の愛した人が自殺したのと同じく、拳銃で撃たれて命を落としてしまうのがとても切ない。
「2012年 ある編集者の悲喜劇、そして訪れるハッピーエンド」
全体の中ではコメディリリーフ的なパートである。1936年に老作曲家として最後には銃で撃たれて死んでしまった男が、ここではうだつの上がらない編集者として生きている。
彼とて昔は詩作にはげむ感受性豊かな青年だったのに、いつしか世俗の垢にまみれていい加減な人間になってしまっている。老人施設脱出をはかる中で、彼は再び瑞々しい感受性を取り戻してゆくのだが、もうおばあちゃんのはずのスーザン・サランドンがとても美しい。
この映画でトム・ハンクスが演じたキャラクターの中では、このダーモットという男が一番好きである。
「2144年 ソンミ451のめざめ」
SFが好きな僕にとっては、最もエキサイティングなパートであった。マトリックス的世界観、ウォシャウスキー節が炸裂し、観る者の心を激しく揺さぶるパートである。
生理的な嫌悪感をがしっとつかまえて離さない描写は、この映画の大きなクライマックスだと思うのだ。
複製されたクローンに人間並みの感情や人権があるのか?
このテーマに強烈な説得力を与えているのが、ソンミ451という複製人間の存在感である。
僕は久々に映画に登場する女性に心を奪われてしまった。
「2321年 人類の種は遠く地球を離れる」
ソンミ451が語った言葉はキリストの福音のように、後の世代に語り継がれてゆく。大きな災厄が人類を襲い、人々は迷信やまじないに支配されるような原始的な生活に逆戻りする。ほんの一部の人達がテクノロジーを操るコミュニティーを作っているが、彼らはこの地球が汚染され居住できる場所が減っていることを知っている。
ここでトム・ハンクスが演じる、原始的な集落に住むザックリーという男。
彼は最後にはコミュニティーの女性と宇宙へ旅立ち、彼が外側から地球を眺めるところでお話が終わる。
なんとなくエンディングは「最後の猿の惑星」のラストを思わせるところがあった。
老人が子供たちに昔のお話を聞かせてあげるようなところなんか、ここで得られる感動はやっぱりSF映画っていいなぁと思ってしまうのだ。
なお、このパートでのヒュー・グラントはまるでマッド・マックス2から抜け出てきたかのような、勇ましい出で立ちであった。
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