空港の書店でふと目に止まった早川文庫のアルゴ。
映画ではベン・アフレックが演じた実在の人物、アントニオ・メンデス氏が書いたドキュメントである。
映画も面白かったし、出張の往復に丁度良いかと飛行機の中で読み始めたのだが、読むアルゴには観るアルゴとはまた違う面白さがあった。
そもそもこの本の作者であり、救出計画で中心的な役割を果たすアントニオ・メンデス氏は、どういう経緯でこの職に就いたのか?
彼はどういう人間なのか?映画のベン・アフレックのような寡黙なタイプの男なのか?
実際の救出作戦も映画のようにスリリングなものだったのか?
おそらく映像化するにあたって、人物の設定や事実関係に多少のアレンジが加わっていると思いながら読み始めたのだが、原作もかなり楽しめるものであった。
昔の角川映画のコピーだったろうか「読んでから見るか、見てから読むか」というのがあったが、映画を観てからこの原作を読むと、いろんな点で興味深いのだ。
この本によるとメンデス氏のCIAでのキャリアのスタートは「偽造屋」だったという。スパイ映画なんかでエージェントに手渡される偽のパスポート、ああいった物を作る仕事である。
そこからキャリアを積んで、海外の要人を脱出させるような「現場」の仕事にステップアップしていったのである。
映画では出てこないのだが、文書の偽造だけではなく変装道具やメイクもCIAにとっては非常に重要で、ハリウッドのメイクアップアーティストに教えを乞うこともあったという。映画ではジョン・グッドマンが演じたジョン・チェンバース というメイクアップアーティストとの付き合いは、実は大使館占領事件発生前からのものだったのである。このあたり、やはり本職の人が書く文章はすごくリアリテイがある。
彼が荒唐無稽な脱出作戦を思いついた背景としては、こういったハリウッド人種との付き合いがあっただけではなく、彼自身が映画好きであるという点も興味深い。(ほんの数ページだが、彼の映画に対する愛情がうかがえる文章もあって、そこがまだ面白く読むことができた)
読むアルゴの方で印象的だった場面がある。
この任務でアメリカを出国する時、彼は空港で奥さんに結婚指輪を預けるのである。
潜入先では独身を装うため指輪は不必要なのと、必ず生きて帰ってくるという約束の意味もあっていつも指輪を預けるのだそうだ。
この場面の奥さんとのやりとりが実にいい。
映像化したらちょっとメロドラマ過ぎになっちゃうかもしれないが、現実の諜報活動を支える人間は、大多数が普通の人間なんだというのが良く分かる場面である。
細かい部分ではいろいろ脚色されている部分が多いが、観るアルゴは映画的な面白さを考えて、原作をとても上手に脚本化していると思う。そしてこの時代のSF映画が好きな僕にとって、本当にニヤニヤしちゃう場面がたくさんあったのも嬉しいかぎりである 。
確かにあの当時嵐のようなスター・ウォーズブームの後、80年代に向かってSF映画は大きく加速していったのだと思うのだ。
実際には作られなかった方のアルゴも是非観てみたいなぁ。