なかでも僕が惹かれたのはクリストフ・ヴァルツ演ずるシュルツ医師である。
彼がどんな経緯で祖国からアメリカに渡ってきたのかは分からないが、とても深みのあるキャラクターとして描かれている。
ジャンゴを観に行ったはずが、シュルツにやられて帰ってくる婦女子が続出してるのではないだろうか。
ものすごく紳士なんだけど、平気で人を撃ち殺せるっていうキャラクター設定がいいなぁなんて。途中からどんどん彼の人間味が出てくるところと相まって、シュルツは西部劇の新たな名脇役として歴史に名を残すんじゃないかと思ったり。
ジャンゴは僕にとっては「繋がれざる男が自由を獲得して妻を救い出す」というよりは「シュルツという男の心のありようを表現した話」のように思える。
バウンティーハンターのシュルツという男が、一人の奴隷に自由を与えたことをきっかけとして、自分の心が変化してゆくのを感じる。そしてジャンゴの妻を救出をする中で、一個の人間としてどうしても我慢できないことに立ち向かってゆく、シュルツの怒りの映画として捉えてしまっているのだ。
冒頭のシュルツは、まだ何を考えているかちょっと分からない感じ。
あのギミック感あふれる馬車がまた「ちょっとこの人なんだろう?」な感じを強調してるし。
僕は酒場でビールを注ぐシーンが、とてもとても印象的だった。
注いだビールの泡を切るところ。
お洒落で物腰も丁寧、紳士然とした動きでビールの泡をチャッチャッときるところ。
ここでもまだまだシュルツがどういう人かは分からない。
ジャンゴもちびちびとビールを飲んでいるあたり、まだまだ油断してないのが分かる。
でも一緒に行動を共にするうちに、不思議だったシュルツという人の心の揺らぎがだんだん見えてくる。
彼の心の動きがが観る者の心にも迫ってくる。
僕は約2時間40分ぐらい、大いにこの映画を楽しんだ。
残酷な描写については色々な意見があるようだが、タランティーノ作品なのでまぁこんなもんじゃないかと思う。
でも、少し物足りなかったのがガンアクションである。
昔から西部劇ではおなじみの、引き金を引いたまま撃鉄を叩くようにして連射する動き。
シングルアクションのリヴォルバー特有のあのガンアクション、あの雰囲気をタランティーノ映画としてもう少し観たかったなぁと思うのだ。
でもその代りにディカプリオとサミュエル・L・ジャクソンのうわ~すんごい!としか言いようのない、こってりとした演技が観れたからよかったのだろうか。
ウエスタンというジャンルはものすごく大きな影響力を持っていたようだ。
ヨーロッパにわたってマカロニウエスタンが作られ、歴史上ガンマンがいなかったはずの日本でも和製ウエスタンという不思議なジャンルが生まれた。
今では和製ウエスタンの流れをくむ作品ってなかなか作られないんだろうけど、僕が小学生ぐらいの頃、ドラマで「人魚亭異聞 無法街の素浪人」というのがあった。
時代は明治維新頃の横浜で、三船敏郎扮するアメリカ帰りの「ミスターの旦那」(なんて素敵なネーミングだ!)が悪者を成敗するお話。
で、なぜか若林豪扮するガンマンも話にからんでくるという。
子供の頃は何の違和感も感じずに観ていたが、オープニング動画のカオスっぷりが素晴らしい。
時代劇と西部劇がミックスされたこの世界観、タランティーノがこのドラマを知っているかは分からないが、もし観たらものすごくウケるんじゃないかと思う。
チャンバラとガンアクションが融合してるってのも凄いんじゃないだろうか。
あと、僕らの世代で忘れられない西部劇と言えば「荒野の少年イサム」だろう。
親の仇のウィンゲート一家を追って、時にイサムの協力者、時にイサムの敵として重要な役どころとなる、ビッグ・ストーンという男である。
川崎のぼるは巨人の星を描いていたが、野球はあまり知らなかったらしく、最初は野球漫画として表現が変なところもあったらしい。
しかし根っからのガンマニアの本領が発揮されたこの漫画、細部にわたる描きこみや、往年の西部劇を彷彿とさせる手に汗握る展開が素晴らしかった。
ビッグ・ストーンは黒人男性であるが、なんというかちょっと黒めの花形満といった風情もあった。
なお、このジャンプは1973年の物でお値段は90円。
「100万部突破!」と表紙に書かれている。
ジャンプが「友情、努力、勝利」をかかげてジャンプ一人勝ち時代を築くずっと前の頃である。
(ものすごい古本の匂いがするのだ......)